任意売却の物上げでも活用されている「不動産登記受付帳」。その中にある「処分の制限に関する登記」に基づいて効率よく物上げするには、登記情報を「所有者事項」で調べた方がいいのか?それとも、「全部事項」で調べた方がいいのか?について、私(大阪エリア)の事例にてお話します。
私は普段、任意売却の物上げ経験が少ない経営者さんや営業マンへのコンサルティングを行いながら、今でも大阪府下のいくつかのエリアを対象として裁判所の「配当要求終期の公告」や不動産登記受付帳の「処分の制限に関する登記」に基づいて物上げを行っています。
「所有者事項」と「全部事項」なら、どっちがいい?
この問題は、不動産登記受付帳をもとに物上げしている多くの経営者さんにとって悩ましいことだと思います。私も裁判所が公示する「配当要求終期の公告」をメインに任意売却の物上げをしていた時は、「時間」も「お金」も不動産登記受付帳(処分の制限に関する登記)での物上げには掛けれなかったので、登記情報は全て「所有者事項」で取っていました。
でも、ある時を境に、この考え方は間違っていると思うようになりました。
あなたが経営者(又は営業マン)なら分かると思いますが、昔から「時間は金なり」と言いますよね。でも、実際には「時間は、お金よりも大事なもの」なんです。お金は失っても頑張れば取り返せますが、失った時間は取り返せないからです。
登記情報提供サービスを利用してオンラインで取得する場合、
所有者事項は 145円/件
全部事項証明は 335円/件
ですよね。(ネットなんだから更に10分の1くらいにしてほしいですが)
処分に関する制限の件数が1カ月分あたり100件程度ならまだしも、複数エリアを取得したりして数百件となると、その全てを所有者事項でやる場合と全部事項でやる場合には結構な金額差になるので同じ経営者(起業家)として、気持ちは痛いほど分かります。
単純に1カ月あたり300件あるとすれば、所有者事項なら43,500円、全部事項なら100,500円。その差は登記情報料だけで57,000円なので、これだけを見ると溜息が出ますよね。
では、私が実践しているエリアの1つである大阪の「堺支局」の平成29年6月分(この記事作成の段階では一番最新のもの)で比較してみましょう。
堺支局 平成29年6月 登記受付分の場合
この堺支局分には「堺市・松原市・高石市・大阪狭山市」の4つの市における不動産登記がまとめられているのですが、平成29年6月分で「処分の制限に関する登記」の件数は113件ありました。
とりあえず、ここでは訪問することを考慮せずに全てDM(ダイレクトメール)を毎月1回、同じところへ半年間送付する営業スタイルだと仮定してみると、
全て「所有者事項」で調べた場合は
登記情報料:113件×145円(所有者事項)=16,385円
DM代:113件×100円(紙代と送料の計)=11,300円
2回目~6回目DM代=11300円×5=56,500円
となると1カ月分の見込み客フォロー費の合計は84,185円となる(DM不達分は考慮せず)。
これに登記情報の調査とDM発送までの人件費が約2日分ほどかかる。
この所有者事項を調べてアプローチする場合の欠点は、「相手(や物件)の状態が全く分からない」という事。つまり、どこが何日に差押したのか、既に解除済みなのか、住宅ローンの借り入れはあるのか、あるなら債権者はどこなのか、物件の築年数や構造、階数は?などが分からない為、つっこんだ営業アプローチ(トーク)が出来ない。しかも最短ルートで不動産登記受付帳を入手したとしても差押登記時から最短1カ月、最長で2カ月の時間が経過しているので、その間に差押が解除されていたり、解除ならまだしも、既に売買が終わって所有者が変わっていることもある。所有者事項だけで営業している場合のクレームは、この「解除済み」や「新所有者」と分からずに出した時に起きやすい。
でも、登記受付帳以外での物上げや他に本業があって、あまり時間を掛けたくない場合には、パートさん任せの自動化ができるのでいいかも知れません。
全て「全部事項」で調べた場合は
マーケティングで言えば、「適正な見込み客」に「適切なメッセージ」を「定期的に伝える」のが大原則なので、全部事項で調べるとうことは
・ターゲット(自分が求める物件)を絞る
・ターゲットに合ったセールスメッセージを作る
・リスト化してフォローをする
というプロセスを重視するという事です。下の図は、私が普段使用しているエクセルのシートで、これを活用して物件を絞り込んでいます。
A列:該当月(配当公示日・登記受付月) B列:所有者名 C列:郵便番号 D列:所有者住所 E列:物件地番 F列:ランク :G列:備考
Excelでリスト化しておけば、重複チェックや追客記録が簡単にできるのでとても便利です。私のやり方は、先ず、常にExcelシートの上部分(画像ではオレンジ線の上側)に裁判所による「配当要求終期の公告」について自分がフォローしているエリア内のものを入力しておきます。
「配当要求」の情報は裁判所に直接見に行ったり、メディアエステートなどの情報屋さんから購入することで手に入ります。ここで配当要求の情報を入力しておくのは、登記受付帳に出てきた時に重複チェック機能(同じ文字列は図中のようにピンク色になる)で予め除外する為です。(ここで配当要求の物件を除外する理由は、物上げマニュアル 31のノウハウ編を参照)
次にE列(物件地番)に不動産登記受付帳の中にある「処分の制限に関する登記」の「地番」をダーっと入力していきます。ちなみに、この入力時に注意するべきことは、「入力時の法則を決めておく」という事です。つまり、石津町1丁1-27というように数字は「半角」で、丁の後は「番ではなく-を使う」というように表示方法を統一しておかないとExcelの「重複機能」を設定してもセル(枠)がピンク色に変わらないので重複を見落としてしまいます。特に数字の半角と全角は変換時に間違えやすいので注意して下さい。
次に、グーグルマップを使って、リスト入力した受付帳の「地番」をコピペして場所を特定させて、ストリートビューで物件の外観を見てみます。私の場合は、バス圏で駐車場もなくて見た目も古い場合は、ランクを「追わない」としています。せっかく媒介が取れても売れなきゃ意味がないからです。
又、住居表示化されている地域では地番で検索しても、Googleマップでは◯丁目までしか表示されないので、「このあたりは売れそうか?」など、勘で瞬時に判断していきます。
又、不動産登記受付帳の種別が「土地」となっていて、その地番の横に「外1」とか「外2」とかが表示されていないもの(つまり、その物件は土地だけという事)、又は種別が「建物」となっているもの(つまり、建物のみ差押されている借地上の建物などで土地の所有権は無い)などは、身体と時間がたくさんあればやりますが、今は、めんどくさいので除外しています。
というように「配当情報や先月までの受付帳リストとの重複チェック」・「Googleマップ」・「受付帳の物件種別」の3つをチェックするだけで約半日かかりますが、
処分の制限に関する登記 113件 ⇒ 54件 まで絞り込まれました。
この54件の全部事項(共担目録付き)で一気に調べて、任意のフォルダに一旦ダウンロードしておきます。(民事協会の場合は、登記情報のダウンロードが平日21時までの為)
全部事項を全てダウンロードしたら、Excelのリストをパソコンの画面半分に表示させておき、コーヒー片手にじっくりと全部事項を1つずつチェックして、ランク分けしていきます。
私のランク分け基準は、A:過去にも差押履歴がある場合 B:初めての差押 C:差押解除済み D:差押あるが抵当権なし 追わない:古い・共有多数・その他
という感じです。もし、あなたが仲間内で連携して再生・再販をしたいなら築古もAまたはBかも知れませんね。CやDもフォローしたいところですが、その余裕があるならAとBに注ぐべきです。なぜなら、人は「治療が必要な時」は動きますが「予防」では、ほとんどの人が行動に移せないものだからです。
ひと通り全部事項のチェック結果をExcelリストに入力してランク分けできたら、見やすいようにリストを並べ替えます。
まず、ランク順に並べ替えしたいリストを左クリックで範囲指定(顔面のようにグレー色に)してから、画面上部にある「データ」タブをの中になる「並べ替え」を押して、優先されるキーをランクを入力した列(この画面ならF)を指定してOKを押す。すると、
↑この画面のようにキレイにランク別に順番が並び変えられるので、このまま印刷してリスト片手に訪問してもいいし、宛名ラベルに印刷してDMを送ることもできます。
この場合、全部事項を吟味することで私がフォローするAランク(19件)とBランク(13件)の合計は32件となりました。つまり、
受付帳だけを見た処分の制限登記113件がA・Bランク32件まで絞り込めたという事です。
ここで、費用と時間についてまとめてみると、
登記情報料:54件×335円(全部事項)=18,090円
DM代:32件(ABランク)×100円 =3,200円
2回目~6回目DM代:3,200円×5回 =16,000円
となると1か月分の見込み客フォロー費の合計は37,290円となる(DM不達分は考慮せず)。
これに登記情報の調査とDM発送の人件費が約3日分かかる。
しかし、この全部事項での難点は「絞り込み作業」が勤続が長いだけのパートさんでは出来ないので、ある程度の実務経験者が必要になる点です。しかも、あなたが、危機感の無いパートさんが、昼食後の睡魔に勝てずに地番見間違いで335円を浪費したり、優良物件を除外されたりしていることが気になる経営者なら自分でやるしかありません。
登記情報料とDM代だけの単純比較(1カ月分のリストにおける半年間のフォロー費)なら
84,185円(所有者事項)-37,290円(全部事項)=▲46,895円
となって、全部事項でリスト化した方が安くつくという計算になります。
しかも、全部事項でのメリットは、差押登記されてから登記受付帳を入手する約1~2カ月の間に、競売開始決定の差押をされて配当要求終期の公告に出る前に情報をキャッチすることがあります。実際に、今回の堺支局の6月分にも競売開始決定を打たれて配当情報に出ていないものが1件ありました。
また、所有者事項なら、あたり障りのない文面で「売り物件求む!」や「買い取り強化中」みたいなアプローチになりがちですが、全部事項なら内容を把握できているので、やろうと思えば1件ずつピンポイントでの手紙を出す事も可能ですし、訪問して具体的な救済トークで切り込めます。
公庫で借りているなら金利4%を指摘するとか(差押後は借換できませんが、惹きつける為のトーク例として)、法人名義なら資金繰りが相当きついハズなので、今のうちに自宅だけでも・・・といろいろなトーク(提案)ができる訳です。
不動産の物上げに限りませんが、人は「自分の為に発せられたメッセージ」には反応しやすいものです。例え、初回のDMに反応しなかった人でも、あなたからのパーソナルメッセージが半年間も毎月届けば、他社よりも特別な存在として記憶に残るかも知れません。
以上、所有者事項と全部事項での比較についてのリアルター実践レポート(大阪版)は、あなたのお役に立ちましたか?